春の野にすみれ摘みにと来し我そ野をなつかしみ一夜寝にける (歌意・春の野にすみれを摘みにとやって来た私は、すみれの花咲 く野の趣に心魅かれて一夜を明かしてしまった。) このすみれは、女性に喩えられたという説もあるが、単に自然を 詠んだものという説もある。二説、含みを持たせられるところが、 秀歌たる所以とも思われる。 私的には、女性に喩えられたものであればいいなとは思いつつ、 学術的な所で、後者に納得している。 すみれを摘むのは、食用とも染料とも観賞用とも言われるが、「野 をなつかしみ」という表現からは、生活を離れた安らぎを想起させら れ、素直な感慨ととれ、文雅の域を感じる。 つまり、すみれの咲く野に魅せられて宿るという点の風雅が、後の 世の文学的基盤となっているのかと、恋の歌にしたいと思う願望 を切り離しつつ、読んだ歌である。 |
万葉集・巻8・1424 山部赤人 |