| 結城 みちこさん・・・・潮音 | ||
・おとうさん生きすぎましたしんとろり夢の中でもあなたはおぼろ ☆同じ地方の出身、親しくお話させていただく機会はありません でしたが、何度か教会で、お顔を拝見する機会がありました。 99歳で、他界されたのは、つい数年前のことです。 「しんとろり」は、思わず浮かんできた心の声を音として組み入 れたものだそうです。語りかけのお歌に効果をあげています。 ・寒月のしたたり冷えてうつすらと霜になりしと霜言わざりき ☆月光のしたたりも凍てつく季節。霜がおりるとき、霜は沈黙を 保ったままである。何の言葉も発することはありません。 これは、作者の老いを受けとめる毅然とした態度にも重ねられ て語られ、高い精神世界の獲得とも思えるものでした。 ・がらんどうのわが身の裡を吹きすぐる夢の風音かつても聴きぬ ☆存えた自分自身をしかと受けとめ、その存在がいつか消えゆく ことがあろうとも、常に覚悟のある状態であることも匂わせて います。でもそれは投げ遣りなものではなく、最後まで「夢の 風」を求めて止まないものでした。いかに生き、いかに逝くか 大事な問いかけを続けておられました。この日、作者には、ど んな夢の風が届けられたのだろうと考えさせられました。 |
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| 今野 寿美さん・・・・りとむ | ||
・木染月・燕去月・雁来月 ことばなく人をゆかしめし秋 ☆木々の葉が紅葉する季節、ツバメが南に戻っていく季節、雁の やってくる季節、日本には、美しくも哀しい季節の移ろいがある。 亡くなった人を送るなかに、人生の移ろいに重ねて美しい言葉で 追悼しています。 |
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| 森 藍火さん・・・・天象 |
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・きみだけに解る言葉をそよがせて寡黙にすぎる豊かな時間 ☆私は、この形のお歌に惹かれます。 さり気ないふたりの関わりが見えてきます。 とてもいい関わりが・・・・豊かな時間の中に ・逢ふほどに逢ひたきおもひ紫陽花の雨の夕闇つつましくゐる ☆逢えば逢うほど惹かれていく心。ずっといたいと言わ なかったところがつつましく大人の関わりを表わします。 紫陽花の色の移りを心に重ねましたが、雨の夕闇に奥ゆか しく隠されています。 |
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| 岡本 かの子さん | ||
・桜ばないのち一ぱい咲くからに生命をかけてわが眺めたり ☆有名なお歌です。 圧倒的なエネルギーに押されます。 桜百首と呼ばれる題詠一連のお歌は、彼女の生涯を支えて きた大きな不思議な力にあふれています。対象としっかり 向き合う姿勢がすばらしいと思えます。 |
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| 大西 民子さん・・・・波濤 | ||
・ひとすじの光の縄の我を巻きまたゆるやかにもどりてゆける ☆私を短歌の世界に引き込んだお歌です。 父が、大西民子さんの直筆の色紙を頂く機会に恵まれ、額に飾られて いたもので、小さい頃から、自然に目に触れていたお歌でした。 ひと日の時間の穏しき流れを射し入るひとすじの光の移ろいで詠ま れたものです。 こういうお歌をいつか詠みたいがために、私は、今、ここにいます。 ・明日ありと思はれずゐるわが前に光たばねて噴水あがる ☆『光たばねて』の中の一首です。 どんなに哀しくても、寂しくても、辛くても、明日はあるのだと、はっと させられてしまいます。しかも、光たばねて・・・・・。 |
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